私は今までオーストラリアにはあまり興味がなかった。もともと北半球というか寒いところが好きだ。だから去年のクリスマスにはマイナス10度のワシントンDC&NYに行くという暴挙をしでかしたのだった。でもオーストラリア、なんだかとても気に入ってしまった。今回私はメルボルンに滞在したが、メルボルンは私の大好きなイギリスやカナダの雰囲気を持ち合わせた街だった。東京のエキサイティングさに慣れてしまうと全ての街が物足りなく感じるときがある。私はNYに行った時もその規模の小ささに驚いてしまうと同時に「東京ってすごいんだ…。」と素直に感動したのだった。オーストラリアはとてものんびりしていて日本の感覚で物事を考えるとイラつくかもしれない。私も最初は戸惑った。とにかく一日のスタートが遅い。毎朝6時前に起きて7時前後の電車に乗る生活をしている私は午前中をのんびり過ごす、ということ自体に罪の意識を感じてしまうというか、すごい時間を無駄にしているような気がしてならなかった。それから友人に連れられて公園に行った。恥ずかしいけれど公園に行って私は何をすればいいのかわからなかった。何もしないでのんびりするというのがどういうことなのかよくわからなかった。大抵旅行に行くと朝9時から夜7時か8時までびっしりのスケジュールを組んで活発に動き回るのがパターンだから、公園に行くには目的がなければならないと思っていた。でもだんだんゆったりとした時間の流れに慣れてくると不思議とこの空間が心地よくなってくる。友人と夜、裏庭に出て南十字星を探した。オーストラリア人にとってあまり南十字星といってもピンとこないらしく、本人達も空を眺めながら悩んでいた。結局2時間以上、友人達と一緒にインターネットの画像と空も見比べながら南十時星を探したけれどはっきりとはわからなかった。でもこんなことを一生懸命やっている自分が不思議ででもとても楽しかった。
通訳の仕事をやっていると理不尽なことが沢山ある。さりげない不満や怒りが心の中にたまって気持ちがささくれだつことがある。どうして自分はこんなに怒りっぽいのだろう。どうして自分の状況に満足できないんだろう。そんな思いを抱えつつ毎日仕事をしている。オーストラリアの青空の下で、本を読みつつのんびりとした午後を過ごしながら、こうやって過ごす時間も必死に会議で通訳をする時間も同じように流れているのだなあ、とふと思った。